ボード選びで最近よく耳にするのがファンボードとミッドレングスボードです。いずれも人気が高く、とかく話題に上がることが多いように思います。実のところ両者の違いはどんなところにあって、その特徴や魅力とはなんでしょう?少し探ってみました。

1. ミッドレングスボードの特徴と魅力について

1.1. ミッドレングスの特徴

ボード長でいえば、6ft4in(約193cm)から8ft11in(約272cm)、ミッドレングスボードとは、その名が示す通り中間の長さのボードです。

サーフボードのサイズを示す3大スペックといえば、長さ、厚み、幅ですが、その中の長さでボードの種類をショート、ミッドレングス、ロングの三つに分けることができます。

一般的にショートボードといえば5ft(約162cm)から6ft4in(約193cm)まで、ロングボードですと8ft11in(約272cm)以上とされていますので、ミッドレングスボードとは長さでいえば6ft4in(約193cm)から8ft11in(約272cm)までのものということになります。明確な基準なありませんが、だいたいこんな感じで区別されています。

ミッドレングス

長さの違いからくるボード特性の違いによって、ライディングスタイルにも違いがでてきます。一般的に、ボード長が長くなるのに比例して厚さ、幅も増えていくのが普通です。

ですから、ボードが長くなるほど浮力が高くなり、安定して、ボードスピードも出やすくなります。テイクオフも楽で、ブレイクの定まらない波や波のパワーのない場所からでも波を捉えることができるようになり、あまりコンディションのよくない日でもそれなりクルージングを楽しむことができます。

しかし、その反面半径の小さなターンが難しく、ショートボードのような鋭いカットやアップアンドダウンなど急激なボード操作ができません。またゲティングアウトも比較的楽にできますが、浮力が大きいのでドルフィンスルーなどは困難です。

ショートボードは、同じ力でパドルしてもボードスピードが上がりづらいのでテイクオフが難しくなり、波を捉えるのに体力や技術が必要になってきます。また常に波のパワーのある場所にボードをコントロールし続けなければならいという難しさはありますが、半径の小さな鋭いターンやカットなどはしやすく、技術や体力が向上すれば様々なテクニックを駆使することができます。

この二者の中間に位置する特徴を持つのがミッドレングスボードです。
ロングボードに近い浮力や安定感があり、テイクオフのしやすさや波を捉えやすさがありますが、ショートボードよりも意識的な体の使い方でレールワークをしないとターンやボードを動かすことができません。

1.2. ミッドレングスの魅力

正しいレールワークが身につく

ロングボードとショートボードの中間であるミッドレングスボードの大きな魅力のひとつが正しいレールワークが身につくということです。

ロングボードは高い浮力で安定したクルージングが楽しめて、多くの波に乗れそうで良いこと尽くめかと思われますが、ターンをするには大きな体重移動をして、レールをしっかりと波に食い込ませる必要があるので初心者がレールワークを覚えるには不向きといえます。

一方、ミッドレングスはロングほどの大きな体重移動をせずにすみますが、ショートほどにわずかな体重移動でのレールワークは困難です。

その結果、適切な体の動作による体重移動が必要になります。

幅広い波のコンディションに対応

サイズが小さくてショートボードではライディングが難しい厚くゆっくりとした波を捉えて、ゆったりとしたクルージングが可能です。ポイントではショートではインサイドでのブレイクでしか乗れない状態でも、アウトからセットで入って来るブレイク手前の波を捉えることもできます。このように、より幅広い波のコンディションでサーフィンを楽しむことができます。

多様なアプローチが可能

ミッドレングスはロングボードとショートボードの中間の特徴があるので、多様なアプローチが可能です。

ある程度波乗りになれたショートボードを使う人が、より幅広い波のコンディションでの楽しみを求めたり、正しい体の使い方でのレールワークによるターンやボード操作や、パドリングからテイクオフ、そしてターンまでのフォームを再確認したりすることもできます。

また、普段はロングボードを使う人が、ショートボードのようなターンやカットなどを楽しみたい場合に、いきなりショートボードに乗り換えることは難しく、ある程度の時間と練習が必要になりますが、ミッドレングスであれば、少しの練習時間で慣れることができます。

また、初心者が最初のボードとして選ぶのにも適しています。ショートボードほどに波のコンディションを選びませんし、体力や技術が十分でなくとも波を捉え、テイクオフすることもできますので、波乗りの楽しさを体感することがしやすいからです。ロングボードにするか、ショートボードにするかまだ決められない人や、ステップアップより楽しさ優先のサーフィンで十分な人にも対応します。

以上のようにミッドレングスはロングボードとショートボードの両者の良い所を併せ持つという特徴から、サーフィンの初心者から、すでにある程度の経験者まで、幅広い状況やニーズに対応するという魅力があります。



2. ミッドレングスとファンボードって何がちがうの?

それでは、ファンボードっていったいなんでしょう?

2.1. 言葉の由来

ファンボードという言葉は90年代ころから使われ始めたと思いますが、実際言葉としての歴史は1980年台のはじめ、ウィンドサーフィンのボードにさかのぼります。

ウィンドサーフィン

1970年代にアメリカ人のホイル・シュワイツァーによって開発されたウィンドサーフィンは最初3mを越えるボードがスタンダードでした。遊び方もレガッタやスラロームなど、川や湖、海上でもヨットに似た遊び方が主流でしたが、やがてサーフィンのようにウェイブライディングを楽しむようになります。
その中心はハワイのマウイ島。

それまでのウィンドサーフィン用のボードといえばポリエチレンで成型されたシェルにポリウレタンのフォームを内側に発泡させたものでしたが、サーフボードと同じようなストリンガー(ウィンドサーフィン用は二本入ったものが主流でした)の入ったウレタンフォームをファーバークロスで巻いてレジンで固めるという造りのボードで、だいたい240~280位の長さのボードにセイルをセットしたもので楽しむようになりました。この波乗りを専門に楽しむためのウィンドサーフィンのボードが最初にファンボードと呼ばれるようになりました。

いわゆるレガッタやスラロームといった競争とは異なった、波乗りを自由に楽しく遊ぶためのボードとしての“ファンボード”という言葉の成り立ちがあったといえると思います。

80年代の初め、しばらくはサーフィンとウィンドサーフィンは世界の違うものという認識が主流でしたが、トップのプロサーファーの中にもウィンドサーフィンを楽しんだり転向したりする者が出てくるようになりました。

かのジェリー・ロペスが80年代からマウイ島で本格的にウィンドサーフィンに取り組んだのを発端に、一気に両者は融合し、ウィンドサーフィンの世界でもウェイブライディングやジャンプが競技に加わるようになりました。

2.2. ファンボードの歴史

ウィンドサーフィンのトッププロの多くが居住するマウイではサーフィンとウィンドの両方を楽しむのは常識であり、風や波のコンディションのあまりよくないときに浮力の大きなウィンドサーフィン用のファンボードで波乗りをすることがありました。

それまでのサーフボードといえば、クラシックなロングボードか、それともラジカルなショートボードかという選択肢しかなかったところに、その中間の長さで浮力の高めのボードがあると便利だ、という発見があったのはこのころだと思います。

ですから、もともとファンボードには“海面のオールラウンドな条件に対応する浮力が高めで、波を捉えやすく、波のコンディションをあまり選ばないで楽しめるボードだ”という概念が備わっていたものだったのだろうと思います。

それがやがて80年代中ごろから始まって、90年代に入ったころから、それまでショートボードが主流だったサーフィンの世界に徐々にロングボードのブームが再燃して、ショートボード一辺倒であったものから、少しずつロングボードに転向したり、波のコンディションに合わせてショートやロングを使い分けたりすることがあまり珍しいことではなくなってきたように思います。

そういう背景の中で生まれてきたのがいわゆる“ファンボード”で、最初は初心者でも扱いやすい、ロングボードほど長く重く厚くなく、ショートボードよりも厚めで浮力の高いボードという認識がありました。

そういう意味においてはファンボードとミッドレングスは概念上重なるものがあるので、少し紛らわしい状況が生まれたのだろうと思います。


2.3. ファンボードとミッドレングスの使い分け

言葉が発せられるときには、その対象物を表すための意図と発話者がそのものをどう捕らえているかを表すための意図とがあります。

現在の使われ方をまとめてみますと、言葉上の意味としては同じものを指しますが、
初心者から経験者までの幅広いニーズやサーフィンをするコンディションに対応する多機能なボードとしてその機能を念頭においているときにはファンボードとよぶことが多く、
経験者が選択的にその特徴を捉えてミッドレングスとよぶことが多いのだろうと思います。