ヨガがサーフィンにもたらす効果
サーフィンとヨガは古くから相性がよく、1970年代からヨガを取り入れるトッププロも多くいました。ジェリー・ロペスもその一人ですし、ほかにも大勢います。それというのも、シリアスにサーフィンと向き合う人ほど、フィジカルとメンタルの両方の強化と調和の大切さを知っているからにほかなりません。
ヨガがサーフィンをする人にもたらす効果と、サーフィンとヨガとの相性の良い関係性について考えてみたいと思います。
1. 歴史と背景
サーフィンはハワイ発祥とされるスポーツで、現地では自然への畏敬の念とともに神様に捧げる行為であるという認識があります。
冬のノースショアなどエキストリームなコンディションの中でのサーフィンは、ひとつ間違えれば、命を落とす危険性もあるのは有名な話ですが、そういう中でおのずとサーファーには鍛え上げた肉体と強靭な精神力の両方が求められていて、ふたつそろって初めて大自然との対話を果たすことができるという考えが形成されました。
集中力や、平常心ということも大事ですが、大きなチャレンジをする人ほど、その中でなによりも恐怖心の克服ということの大切さを思い知るものです。
大げさに思われるかもしれませんが、この恐怖心の克服というのは、初心者のころから常に対峙することだと思います。波の強さや大きさに思わず怖さを感じたとき、テイクオフする瞬間の急なスロープに恐怖を感じたときなど、そんなときに感じる一瞬の躊躇や不安な気持ちが事の成否を分けることも少なくないと思います。
こうした歴史的、文化的背景があるので、メンタル的な要素に重きを置くサーファーが多く、その中でもサーフレジェンドであるジェリー・ロペスを筆頭に、ヨガの肉体と精神に与えるよい影響力に着目する素地が古くからあったのです。
2. メンタルとフィジカルの両方に期待できる効果
ヨガのポーズには様々な効果がありますが、特に大事なのが呼吸法です。
腹式呼吸による深い呼吸は、心肺機能を高め、さらに精神的安定を得るのに役立ちます。ヨガの全てのポーズはこの呼吸法とともに行われます。ヨガを始めると、徐々に精神的集中が高まり、自分との対話を経て、自我が消えて自然との調和を感じるようになると思います。
このプロセスが特にメンタル、フィジカルの両方に強く働きかけて、精神と肉体の調和、自然との融合、ひいては恐怖心や不安感をコントロールできるように感じます。
また、サーフィンは常に海や波という大自然を感じ取りながら自分の肉体を通じてボードをコントロールして自分の中に浮かんだラインを波の上に描いていくものです。
そのプロセスにおいては、思考という域を越えて、本能的に瞬時に感じ取ったものに反応し、本能的に浮かび上がったアイデアに沿った動きをしていくものです。
この一瞬の感覚や本能的ひらめきは、自分との対話、自然との対話の中で無意識に近い状態で展開されます。この感覚を得るのにヨガをしながらの自分との対話、自然との調和、無我といった感覚が役立つものと思われます。
もちろん、メンタルばかりに効果があるわけではありません。
サーフィンはバランススポーツですから、インナーマッスル、強い体幹が必要になります。目線の動きに始まって、首、肩、腰、膝、足首、足の裏にいたるまで、一連の関節が柔軟に連動することで体重移動や臨機応変なフットアジャストによるボードコントロールが可能になり、様々な技を繰り出すことができます。
上半身と下半身がうまく連動しておらず思う様なライディングができないなど、よくあることだと思います。自分の身体を知ってどういう動きをすると自然なボード操作ができるのかは、ヨガの自分の体の重みやつくりを利用してバランスを取りながらポーズをとることに通ずる部分があります。
ヨガのポーズにはそれぞれに目的がありますので、自分にあったものを選んで、メニューをくみ上げることができるのも楽しさのひとつだと思います。
バランス感覚、インナーマッスル、メンタルトレーニング、心肺機能。どれをとってもサーフィンばかりでなく全てのスポーツに必要な要素が揃っているといっても過言ではないのがヨガです。
ちなみに、女性にとっての副次的効果として、血流がよくなるので基礎代謝アップによるダイエット効果、冷えの改善、自然なお通じを促すなど、サプリや医薬品に頼らない健康づくりに効果もあります。
3. 運動としてのヨガ(サーフィンの直前には動的ストレッチを)
ヨガのポーズは呼吸法とともに、バランス感覚とインナーマッスルを鍛えることのできる有酸素運動であり、各関節の可動域を広げる静的ストレッチであると言えると思います。
ほかの運動と比べて、広い場所を必要とせず、場所を選びませんし、基本的には器具や用具を使うことはないので、いつでも時間を見つければ行うことができます。
ただし、ひとつ注意点としてサーフィンをする直前にはやらないようにした方が良いです。
運動生理学的に、パフォーマンス直前の静的ストレッチは、場合によってはパフォーマンスを低下させてしまう可能性があるという研究があるからです。
海に入る前には動的ストレッチのほうが好ましいのではないかと考えています。もちろん、メンタルな要素もありますので、必要に応じてメニューの中から、自分にとってメンタル的な集中やリラックスに役立ちそうなものをひとつかふたつ選び出して、動的ストレッチに加えるというのがおすすめです。
普段のトレーニングとしてのヨガは静的ストレッチに近いので、そのような使い分けをするのがよいのではないかと思います。
有名な話ですが、ジェリー・ロペスは肉体と精神の鍛錬に強いこだわりを持つがゆえに、食事や栄養のとり方にまで気を配っていたそうで、笑い話のようですが、彼はサーフィンをしにアジアのサーフポイントを訪れることも多くあったのですが、アジアの国に、わざわざ普段食べているお米を持ち込むのは彼くらいだろうなんていう嘘のような実話もあります。
それほどにフィジカル、メンタルのコンディショニングには気を配っていたということがうかがい知れるエピソードだと思います。事実マウイ時代の友人は彼が常に食事には気を配っていて、過度な肉食や、糖分や炭水化物の過剰摂取はさけていて、朝晩と欠かさずにヨガをするのだと聞きました。
サーフィンは、単なるスポーツというだけでなく、自然との対話を通して自分との対話をするものでもあります。不安や、恐怖、平常心など、どれもが優れたパフォーマンスには必要であり、日常生活やビジネスの場でも役に立つものだと思います。
サーフィンのトレーニングにヨガを取り入れることで、メンタル、フィジカルの両方が鍛えられて、サーフィンライフの向上に役立つばかりでなく、健康的な日常生活を得るための助けにもなるものだと思いますので、是非試してみてください。